働き方改革法案関連法案が改正、施行される中で、「労働施策総合推進法」、「労働基準法」、「労働時間等設定改善法」、「労働安全衛生法」、「新パートタイム・有期雇用労働法」、「労働者派遣法」の法律に適用するため、コンプライアンス遵守のためが大きな要件ですが、その背景を考えると以下の背景、状況が分析されています。
働き方改革関連法案が本格的に適用されてから1年経過します。時間外労働の限度規制も2020年4月1日から施行です。
日本は失われた30年に入ろうとしています。1990年バブルが崩壊し、約30年です。バブル崩壊前は、ジャパン アズ NO1 という本が出版されたことを覚えておられるとおもいます。年功序列、終身雇用はうまく機能しました。ヨーロッパでは東西ドイツの統一、ソ連邦の崩壊、アメリカは非効率的な生産設備と従来の産業の衰退に陥っていました。そのころ、ドイツやアメリカは大きな転換をします。働き方改革を遂行し、アメリカは女性の社会進出の推進、ドイツは労働時間の短縮と生産性向上です。日本は世界からチヤホヤされている間に、他の国が必死になって改革をしました。
日本も取組はしましたが、年功序列、終身雇用、は残りました。正社員を残し、非正規社員、派遣社員が増えてきました。今や労働者の4割は非正規と呼ばれる方です。労働者に格差を生みました。労働時間は年間1800時間と低くなった統計がありますが、非正規の方も含む数字です。依然正社員は年間2000時間以上働いています。(下図参考)正規社員は疲れ切り、非正規社員は正規社員と賃金、待遇の格差にモチベーションは上がりません。会社の業績は上がらない原因の一つです。
日本の労働生産性は先進国で最下位です。働き方を抜本的に変革し、正規社員と非正規社員という言葉自体がなくなるような労働制度が必要な時期です。しかも世界に日本が勝ち残れる最後の機会が今です。仕事の成果、責任により処遇が決まる制度が必要です。
図が示しているように非正規社員が全労働人口に4割に増え、平均年間総労働時間は1800時間まで減少しているようですが、非正規社員を加えて、平均を算出しています。「日本の働き方改革の最大課題」は
① いわゆる「正社員」・「非正社員」間の待遇格差問題
② 「正社員」の長時間労働問題
= この2つの問題は、相互に密接に結びつきながら負の連鎖をもたらしている。
→ この2つの問題に同時に対策を講じていくべき。
という結論に至りました。
働き方改革実現会議 働き方改革実行計画(2017.3.28)決定事項の中で
(2)今後の取組の基本的考え方
日本の労働制度と働き方には、労働参加、子育てや介護等との両立、転職・再就職、副業・兼業など様々な課題があることに加え、労働生産性の向上を阻む諸問題がある。「正規」、「非正規」という2つの働き方の不合理な処遇の差は、正当な処遇がなされていないという気持ちを「非正規」労働者に起こさせ、頑張ろうという意欲をなくす。これに対し、正規と非正規の理由なき格差を埋めていけば、自分の能力を評価されていると納得感が生じる。納得感は労働者が働くモチベーションを誘引するインセンティブとして重要であり、それによって労働生産性が向上していく。また、長時間労働は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因になっている。これに対し、長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につながる。さらに、単線型の日本のキャリアパスでは、ライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくい。これに対し、転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば、労働者が自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようになり、付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にもつながる。
働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である。生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る「成長と分配の好循環」が構築される。
と明記してあります。政府の危機感が伝わる内容です。なぜ同じ会社で働いているのに格差を生じさせているのか。その結果生産性を諸外国に比べ落としているのです。
横軸に労働参加率 縦軸に労働生産性 です。現在緑のパイとして、労働参加率を上げ生産性を上げることでパイを大きくします。大きくしたパイの分配を人事評価のルールで社員に分配します。社員はモチベーションを高くし、更に働きがいの会社で高成果を残すようになります。好循環を作るのが働き方改革です。
労働政策審議会職業安定分科会、雇用・環境均等分科会、同一労働同一賃金部会
『同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)』(2017.6.9)は以下の必要性を明記しております。
賃金等の待遇は、労使によって決定されることが基本である。しかしながら同時に、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の是正を進めなければなら ない。このためには、
(1) 正規雇用労働者-非正規雇用労働者両方の賃金決定基準・ルールを明確化、
(2) 職務内容・能力等と賃金等の待遇の水準の関係性の明確化を図るとともに、
(3) 教育訓練機会の均等・均衡を促進することにより、一人ひとりの生産性向上を図る という観点が重要である。
また、これを受けて、以下の考え方を法へ明記していくことが適当である。
・ 雇用形態にかかわらない公正な評価に基づいて待遇が決定されるべきであること
・ それにより、多様な働き方の選択が可能となるとともに、非正規雇用労働者の意欲・
能力が向上し、労働生産性の向上につながり、ひいては企業や経済・社会の発展に寄 与するものであること
これに沿って雇用対策法が改正され「労働施策総合推進法」となりました。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
(目的)
第1条 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
(基本的理念)
第3条(略)
2 労働者は、職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(以下この項において「能力等」という。)の内容が明らかにされ、並びにこれらに即した評価方法により能力等を公正に評価され、当該評価に基づく処遇を受けることその他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。
(国の施策)
第4条 国は、第1条第1項の目的を達成するため、前条に規定する基本的理念に従って、次に掲げる事項について、必要な施策を総合的に講じなければならない。
一 各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することを促進するため、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、多様な就業形態の普及及び雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保に関する施策を充実すること。
二 各人がその有する能力に適合する職業に就くことをあっせんするため、及び産業の必要とする労働力を充足するため、職業指導及び職業紹介に関する施策を充実すること。
(中略)
九 疾病、負傷その他の理由により治療を受ける者の職業の安定を図るため、雇用の継続、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職の促進その他の治療の状況に応じた就業を促進するために必要な施策を充実すること。
以下の内容が法が求める人事評価制度構築とそれに伴う処遇をすることです。
労働者は、次の事項により、自らの職業の安定が図られるように配慮されるものとする。
(1)職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(能力等)の内容が明らかにされること。
(2)能力等の内容に即した評価方法により能力等が公正に評価されること。
(3)その評価に基づく処遇を受けること。
(4)その他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されること。
パート・有期雇用労働法第10条(賃金)
事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第2項及び第12条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。
労働施策総合推進法第3条(基本的理念)
労働者は、職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(以下この項において「能力等」という。)の内容が明らかにされ、並びにこれらに即した評価方法により能力等を公正に評価され、当該評価に基づく処遇を受けることその他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。
大企業:2020年4月1日
中小企業:2021年4月1日
当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。等紛争解決の手段が規定されました。
関連法 |
適用対象者 |
行政指導 |
ADR |
労働契約法 20条(削除) |
有期雇用労働者 |
規定なし |
規定なし |
パートタイム ・有期雇用労働法8条 |
短時間労働者 有期雇用労働者 |
都道府県労働局長に よる助言・指導・勧告 |
・司法(裁判所) ・都道府県労働局長による 助言・指導・勧告 ・紛争調整委員会による 調停 |
パートタイム ・有期雇用労働法9条 |
短時間労働者 有期雇用労働者 |
都道府県労働局長に よる助言・指導・勧告 |
・司法(裁判所) ・都道府県労働局長による 助言・指導・勧告 ・紛争調整委員会による 調停 |
雇入れ時 |
雇用管理上の措置の内容の説明義務 |
○ |
×→○ ※1 |
求めがあった時 |
待遇決定に際して考慮事項の説明義務 |
○ |
×→○ ※1 |
待遇差の内容、理由等の説明義務 |
×→○ ※2 |
×→○ ※2 |
有期雇用労働者 |
雇用管理上の措置の内容及び待遇決定に際しての考慮事項についての説明義務を新設 ※1 |
パートと有期雇用労働者の双方 |
求めがあった場合、正社員との間の待遇差の内容、理由等の説明義務を新設 ※2 |
(福利厚生施設)
第12条 事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令(※)で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。 ※:給食施設、休憩室、更衣室
基本給、賞与等の待遇について、次の事項を考慮して、不合理な相違を設けてはならない。
(1)職務の内容※1
(2)職務の内容・配置の変更の範囲
(3)その他の事情※2
次のいずれもが同一の場合は、基本給、賞与等の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
(1)職務の内容※1
(2)職務の内容・配置の変更の範囲
※1:職務の内容=業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
※2:その他の事情= 「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討。成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯は、「その他の事情」として想定されている。
職務の内容 |
「a.業務の内容」と「b.当該業務に伴う責任の程度」のことをいいます。 |
|
a.業務の内容 (業務の種類(職種)と従事している業務のうち中核的業務が実質的に同じかどうかで判断) |
業務とは職業上継して行う仕事。 ⇒ 業務の内容は業務の種類(職種)と中核的業務で判断。 ※:業務の種類(職種)とは、販売職、管理職、事務職、製造工、印刷工等といった従事する業務のことをいいます。 ※:中核的業務とは、職種を構成する業務のうち、その職種を代表する中核的なものを指し、職種に不職務の内容可欠な業務を指します。 |
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職務の内容・配置の変更の範囲 |
b.当該業務に伴う責任の程度 ( 責任の程度が著しく異ならないかどうかで判断) |
業務の遂行に伴い行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等。 ⇒例えば、 ▪ 単独で決裁できる金額の範囲 ▪ 管理する部下の人数 ▪ 決裁権限の範囲 ▪ 職場において求められる役割 ▪ トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応 ▪ 売上目標等の成果への期待度 等 |
職務の内容・配置の変更の範囲 |
将来の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲のことをいいます。 |
|
その他の事情 |
「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討します。成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯は「その他の事情」として想定されています。 |
下記の図は均等待遇と均衡待遇のマトリクスです。
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通常の労働者と比較した結果 |
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①職務の内容 (業務の内容及び責任の程度 |
②職務の内容・配置の変更の範囲 |
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求 め ら れ る 対 応 |
均等待遇の対象 (差別的取扱い禁止) |
同じ |
同じ |
均衡待遇の対象 (不合理な待遇差禁止 |
同じ |
異なる |
|
異なる |
同じ |
||
異なる |
異なる |
パートタイム有期雇用労働法は説明義務を雇入れ時、及び求めがあったときに説明義務を明記しています。
イ) 待遇について、通常の労働者の待遇との間で不合理な相違を設けていない旨(8条)
ロ) 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者の要件に該当する場合、通常の労働者との差別的な取扱をしない旨(9条)
ハ) 職務の内容、職務の成果等のうちどの要素を勘案した賃金制度となっているか(10条)
ニ) どのような教育訓練が実施されるか(11条)
ホ) どのような福利厚生施設を利用できるか(12条)
ヘ) どのような通常の労働者への転換推進措置を実施しているか(13条)
イ) 短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由
ロ) 労働条件に関する文書の交付(「昇給の有無」「退職手当の有無」、「賞与の有無」、雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」)(6条)
ハ) 短時間・有期雇用労働者の就業規則を作成した場合の意見徴収(7条)
比較の対象となる通常の労働者 |
・職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期・雇用労働者のそれに最も近いと事業主が判断する通常の労働者
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待遇の相違の内容 |
・両者との間の待遇に関する基準の相違の有無 ・次のア又はイに掲げる事項 ア 両者の待遇の個別具体的な内容 イ 両者の待遇に関する基準
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待遇の相違の理由 |
両者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、説明する。
|
比較対象の通常の労働者は同じ事業場で働きく中から事業主が選択します。
(例)短時間・有期雇用労働者との間で、
ア.①職務の内容又は②職務の内容・配置の変更の範囲が異なる
正社員の社員タイプ(総合職・一般職)と、
イ.①職務の内容及び②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ
正社員の社員タイプ(店舗採用の無期雇用フルタイム労働者)
が併存している場合
1) 比較の対象となる通常の労働者
事業主は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について説明するものとすること。
(2)待遇の相違の内容
事業主は、待遇の相違の内容として、次のイ及びロに掲げる事項を説明するものとすること。
イ 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇に関する基準の相違の有無
ロ 次の(イ)又は(ロ)に掲げる事項
(イ)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容
(ロ)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の待遇に関する基準
(3)待遇の相違の理由
事業主は、通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、待遇の相違の理由を説明するものとすること。
(4)説明の方法
事業主は、短時間・有期雇用労働者がその内容を理解することができるよう、資料を活用の上、口頭により説明することを基本とするものとする。
ただし、説明すべき事項をすべて記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、当該資料を交付する等の方法でも差し支えない。
資料とは、就業規則・賃金規程・待遇を記載した資料など。事業主は、就業規則を閲覧する者からの質問に、誠実に対応する必要があること。
「待遇に関する基準」を説明する場合、例えば賃金であれば、賃金規程や等級表等の支給基準の説明をすること。ただし、説明を求めた短時間・有期雇用労働者が、比較の対象となる通常の労働者の待遇の水準を把握できるものである必要があること。すなわち、「賃金は、各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する」等の説明では十分ではないこと。
○ 待遇の相違の理由の説明については通常の労働者及び短時間労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき説明する必要があること。具体的には、
• 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が同一である場合には、同一の基準のもとで違いが生じている理由(成果、能力、経験の違いなど)
• 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が異なる場合には、待遇の性質・目的を踏まえ、待遇に関する基準に違いを設けている理由(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲の違い、労使交渉の経緯など)、及びそれぞれの基準を通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者にどのように適用しているか
を説明すること。また、待遇の相違の理由として複数の要因がある場合には、それぞれの要因について説明する必要があります。
法第14条第2項に基づく待遇の相違の内容及びその理由に関する説明については労使交渉の前提となりうるものであり、事業主が十分な説明をせず、その後の労使交渉においても十分な話し合いがなされず、労使間で紛争となる場合があると考えられる。「その他の事情」に労使交渉の経緯が含まれると解されることを考えると、このように待遇の相違の内容等について十分な説明をしなかったと認められる場合には、その事実も「その他の事情」に含まれ、不合理性を基礎付ける事情として考慮されうると考えられるものであること。
改正法 |
旧法 |
(賃金) 第10条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第2項及び第12条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。 |
(賃金) 第10条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者(通常の労働者と同視すべき短時間労働者を除く。次条第2項及び第12条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金(通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。
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勘案要素のうち、どの要素によることとするかは各企業の判断に委ねられるものであるが、その勘案については、法第 14 条第2項による説明を求められることを念頭に、どの要素によることとしたのか、また、その要素をどのように勘案しているのかについて客観的かつ具体的な説明ができるものとされるべきであること。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について (平31.1.30基発0130第1号・職発0130第6号・雇均発0130第1号・開発0130第1号)
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(賃金の決定)
第○条 賃金は、各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する
第1目的
• 同一労働同一賃金とは、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇の相違の解消をめざすもの
• 各事業主は職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確にするとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を労使の話し合いによって確認し、共有することが重要
• 賃金だけでなく、福利厚生、キャリア形成、職業能力の開発及び向上等を含めた取組が必要
同一労働・同一賃金関係の判決は「ハマキョウレックス事件(2018.6.1最高裁判決)」「長澤運輸事件(2018.6.1最高裁判決)」を参考できます。
待遇の性質、目的 |
考え方等 |
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職能給(職業経験・能力に応じた) |
職業経験・能力に応じて支給する基本給 |
職業経験・能力が同一であれば同一の支給、一定の相違があれば相違に応じた支給 |
成果給(業績成果に応じた) ・成果手当 |
業績・成果に応じて支給する基本給 |
業績・評価が同一であれば同一の支給、一定の相違があれば相違に応じた支給 |
勤続給 |
勤続年数に応じて支給する基本給 |
勤続年数が同一であれば同一の支給、一定の相違があれば相違に応じた支給(有期雇用契約の場合は通算
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昇給 (勤続による能力の向上に応じた) |
勤続による能力の向上に応じた昇給 |
勤続による能力の向上に応じた部分が同一であれば同一の昇給、一定の相違があれば相違に応じた昇給 |
賞与 (業績等への貢献に応じた) |
会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給 |
貢献に応じた部分に応じた部分が同一であれば同一の賞与、一定の相違があれば相違に応じた賞与を支給 |
役職手当 |
役職の内容に対して支給 |
同一の内容の役職に就くときは同一の支給、役職の内容に一定の相違があれば相違に応じた役職手当を支給 |
特殊作業手当 (業務の危険度・作業環境に応じた) |
業務に伴う危険度・作業環境に対して支給 |
同一の危険度・作業環境の業務に就くときは同一の支給 |
特殊勤務手当(交替制勤務等の勤務形態に応じた)
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勤務形態(休日・深夜での労働等)に対して支給 |
同一の勤務形態で業務に従事するときは同一の支給 |
精皆勤手当
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出勤日数・皆勤を奨励する必要性のため支給 |
正社員と同一の業務内容のときは同一の支給 |
時間外・深夜・休日労働手当
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所定外・深夜・休日労働時間の場合の割増賃金等 |
同一の所定外・深夜・休日労働時間を行った場合は同一の支給 |
通勤手当・出張旅費 |
通勤・出張に係る実費の負担補助 |
同一の支給 |
食事手当 |
食費の負担補助(労働時間の途中に食事のための休憩時間がある場合) |
同一の支給 |
単身赴任手当 |
単身赴任の負担補助(二重生活、帰省費用等) |
同一の支給要件を満たす場合は同一の支給 |
地域手当(特定の地域で働く場合) |
物価の高い地域で勤務する場合の負担補助 |
同一の地域に勤務する場合は同一の支給
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転勤用住宅 |
家賃等に対する負担補助 |
同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たせば同一の支給 |
慶弔休暇 |
家族や親族の事情・関係性を尊重 |
同一の休暇の付与 |
健康診断に伴う勤務免除・給与の保障 |
健康維持への配慮 |
同一の勤務免除・給与の保障 |
病気休職 |
私傷病時に安心して療養してもらうため |
同一の取得を認める(有期雇用労働者の場合は労働契約が終了するまでの期間を踏まえて) |
法定外年休・休暇 (勤続期間に応じた)
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勤続期間に対す報償的な休暇 |
同一の勤続期間であれば同一の付与(有期雇用契約の場合は通算)
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現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施する教育訓練 |
職務の内容に応じた技能・知識習得の必要性 |
職務の内容が同一であれば同一の実施
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安全管理に関する措置・給付 |
特定の業務環境からの必要性 |
同一の業務環境であれば同一の措置・給付
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通勤手当のように、)職務の内容や職務の内容・配置の変更の範囲が、不合理か否か判断するに当たっての考慮要素とならない場合が考えられます。例えば同様のことは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される食事手当、出張を命じられた労働者に対して支給される出張旅費にもあてはまると考えられます。
通常の労働者と定年後の継続雇用の有期雇用労働者との間の賃金の相違については、実際に両者の間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違がある場合は、その相違に応じた賃金の相違は許容される。
さらに、定年制の下における通常の労働者の賃金体系は、当該労働者が定年に達するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し、事業主が定年に達した者を有期雇用労働者として継続雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、定年に達した後に継続雇用される有期雇用労働者は、定年に達するまでの間、通常の労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることが予定されている。そして、このような事情は、定年に達した後に継続雇用される有期雇用労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものであるということができる
そうすると、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理であるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第八条における「その他の事情」として考慮される事情に当たりうる。また、定年に達した後に引き続き有期雇用労働者として雇用する場合の待遇について、例えば、労働組合等との交渉を経て、当該有期雇用労働者に配慮したものとしたことや、待遇の性質及び目的を踏まえつつ他の待遇の内容を考慮すると、通常の労働者との間の差が一定の範囲にとどまっていること、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、一定の上乗せが行われること、定年退職に関連して退職一時金や企業年金の支給を受けていることなどの様々な事情が総合考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理であるか否かが判断されるものと考えられる。したがって、当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用される者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないとされるものではない。
労働者派遣法第30条の3 (不合理な待遇の禁止等)
1 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
パート・有期雇用法8条に対応
労働者派遣法第30条の3 (不合理な待遇の禁止等)
2 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。
パート・有期雇用法9条に対応 他社との比較なので「差別的取扱」とはなっていない。
派遣法における均等・均衡待遇
(中小企業の適用猶予なし)
2020年4月より施行されますので中小企業も猶予はありません。
労働者派遣法第26条 (契約の内容等)
7 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第1項の規定により労働者派遣契約を締結するに当たっては、あらかじめ、派遣元事業主に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。
9 派遣元事業主は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から第7項の規定による情報の提供がないときは、当該者との間で、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務に係る労働者派遣契約を締結してはならない。
原則は【派遣先均衡・均等方式】
次の要件を満たす労使協定を締結した場合は、上記(派遣先均衡・均等法方式)適用が除外【労使協定方式】
① 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
② 次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあっては、イ)に該当する派遣労働者の賃金の決定の方法
イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。 →毎年6~7月に告示
*1:賃金基本統計調査と職業安定業務統計を用いる。
*2:職種別の一覧表と能力・経験調整指数、地域指数を毎年、政府が公表(時給ベース)
ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること。→昇給制度が必要
③ 派遣元事業主は、①に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たっては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。 →評価制度が必要
④ 派遣労働者の賃金以外の待遇の決定の方法が、それぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることとならないこと。→派遣元の正社員の待遇と不合理な相違は禁止
⑤ 派遣元事業主は、派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること。
⑥ その他の事項
・有効期間(2年以内が望ましい)
・労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
・特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと
派遣先は、派遣先の労働者に実施する「業務の遂行に必要な能力 を付与するための教育訓練」については、派遣元の求めに応じて、派 遣元が実施可能な場合などを除き、派遣労働者に対してもこれを実施するなど必要な措置を講じなければならない。
派遣先は、派遣先の労働者が利用する食堂・休憩室・更衣室につ いて、派遣労働者に対しても利用の機会を与えなければならない。
派遣先は、派遣先が設置・運営し、派遣先の労働者が通常利用し ている物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、 講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設などの施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるよう配慮しなければならない。
【雇入れ時の説明】
待遇決定方式に応じて説明
① 派遣先の通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けない・差別的取扱いをしない旨
② 一定の要件を満たす労使協定に基づき待遇が決定される旨
③ 賃金の決定に当たって勘案した事項(職務内容、成果、能力、経験など)
【求めがあったときの説明】
【派遣先均等・均衡方式】の場合
◎ 派遣労働者と比較対象労働者の待遇の相違の内容
→ 次の①及び②の事項
① 待遇の決定に当たって考慮した事項の相違の有無
② 待遇の「個別具体的な内容」又は「実施基準」
◎ 待遇の相違の理由
職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして、待遇差の理由として適切と認められるもの
【労使協定方式】の場合
◎ 賃金が、次の内容に基づき決定されていること
・ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
・ 労使協定に定めた公正な評価
◎ 待遇(賃金などを除く)が派遣元に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く) との間で不合理な相違がなく決定されていることなど
※:派遣先均等・均衡方式の場合の説明の内容に準じて説明
労働者は、次の事項により、自らの職業の安定が図られるように配慮されるものとする。
(1)職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(能力等)の内容が明らかにされること。
(2)能力等の内容に即した評価方法により能力等が公正に評価されること。
(3)その評価に基づく処遇を受けること。
(4)その他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されること。
従来型の雇用慣行やそれを前提にした法制度は、時代の変化に追い付いておらず、働き手の能力を発揮する機会を妨げてきた。その結果、次のような問題が生じている。
l 正規・非正規間の不合理な待遇格差やキャリ形成機会の格差
l 新卒一括採用中心の下での転職機会の少なさ
l 育児や介護との両立の難しさ。子育て退職の就業機会の少なさ
l 正社員の長時間労働
l メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換
l より効率的で成果が的確に評価される働き方
l 労働移動の円滑化
(人的投資をはじめとする民間投資の喚起)については、財政の利活用や制度改革等により、Society 5.0 時代に向けた人的投資を一層喚起する。このため、メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換、より効率的で成果が的確に評価される働き方、労働移動の円滑化等を含め、今後、フェーズⅡの働き方改革に向けて必要な制度改革や仕組みづくりに取り組む。
『経済財政運営と改革の基本方針2019について』(2019.6.21閣議決定)
今まで解説いたしました内容は、働き方改革の中の一つです。要は社員が参加した(全員納得ではない)評価制度、賃金制度を今年度中に作成することです。
背景と法的根拠から逃れることはできません。ならば、生産性を上げることで会社を生き残らせていくことです。そのためには働き方改革を利用し、稼ぎ方改革をすることです。
小野事務所はネットワークを活用してお役に立てる制度改革をお手伝いいたします。
同一労働同一賃金の対策は会社に人事評価制度と処遇の賃金、賞与、退職金の制度を整備することが必要です。退職金は義務ではありませんが、正社員に退職金があるのに、ほぼ同じ労働時間、職務、責任、であれば非正規社員にも必要でしょう。
人事評価で評価点数に差が出れば賃金も異なる合理的な理由になります。社員一人一人のモチベーション、人材確保の点からも導入は必須です。更に生産性を向上するには評価制度と処遇と人材育成を合わせた雇用管理制度を作りましょう。
(サイト内へ移動します)
1、資格制度を作る
2、職種別の等級制度をを作る。
3、職種ごとの評価項目を作成する
4、業績評価項目とウェイトを作成する。
5、評価の時期を決定する。
6、評価者研修をおこなう
7、社員説明会を行う
8、評価者委員会を設置する
評価制度は分かりやすく、運用しやすいものを作ります。人事評価制度は生産性向上、人材育成に結びつけなければ意味はありません。