歴史について
1970年代に心理学者のアメリカのマクレランドが高業績者はIQよりは動機や性格などの心の内面を原動力とする行動により成果や目標を達成していると唱えました。
マクレランドの後継者ボヤツィスが有能なマネージャーの心理学的に測定した行動と高業績と因果関係の強さを相関係数で証明し、その行動をコンピテンシーと名付け1982年「Ccompetent Manager」を著しました。ボヤツィスの後継者スペンサーは企業指導の実績を踏まえ、総合的で実用的な「Competence at Work」を刊行しました。この本はコンピテンシーの定本的な存在になりました。
コンピテンシーの定義とスポーツ選手の例(太田隆次著 コンピテンシー実務ハンドブック引用)
イチロー選手の成果は、首位打者、盗塁王、完璧な守備です。彼が見せたコンピテンシーは、打って安打、走って盗塁、守って美技です。このコンピテンシーは外に見える能力(体力、野球理論)、技能(動体視力、運動神経)に加え、見えない部分に、自己管理、成果はプロセスの積み重ね、バッターボックスに入るまでの一連の準備で使命感を確認、や野球道の追及などが根底にあることを彼は協調しています。単なる技能だけでは普通の選手のレベルにとどまるでしょう。コーチの良し悪しは見えない部分の指導ができるか否かで決まるでしょう。私たちの身の回りにいる「高業績」は、外面の知識、技能もさることながら、内面の心の部分、わけても「動機」が普通の人と異なる構造になっていることに気が付くでしょう。
コンピテンシーとは、心理学でいう「高業績者」の成果達成の行動特性です。日本の風土でいえば「実力」となります。
「実力」とはあるレベルの業績(目標・成果)を偶然でなく、意図して反復して繰り返し達成する能力、たとえば100m10秒台で走る選手がいるように、ある業績を必ず達成する能力を「実力」と考えることができます。
この「実力」は顕在化されたもので、肉体的には100メートルを10秒台で走れる「保有能力」を備えていることとは区別できます。
成果を生むには能力に行動が必要です。
コンピテンシーは見える部分と見えない部分からなります。コンピテンシーを働かせることで成果を生み出します。
能力×行動=成果です、例えば能力を水、行動を熱とするとお湯という成果が発生します。
図のように氷山の水面下は外部に見えない「動機・価値観・使命感」が外に向かって行動となって具体化されることを示しています。逆に立派な学歴と知識という能力はあっても業績を上げられない人は、そもそも動機と使命感がないからです。
コンピテンシーディクショナリーについて
マクレランドを中心とした研究協力調査でコンピテンシーディクショナリーを作成しました。例えば
1. 業績・行動 2.対人関係力 3.影響力 4.管理力 5.認知力 6.個人の成熟
性といった内容です。
人事政策研究所は2000年より、日本の会社に適応したコンピテンシーディクショナリーを作成し1000社以上の会社に導入のお手伝いをした実績から独自のコンピテンシーカードを作成し、研修、人事評価、業績向上に利用されています。(引用、太田隆次著「コンピテンシー実務ハンドブック」「アメリカを救った人事革命コンピテンシー」)
社会保険労務士小野事務所は人事政策研究所の望月人事クラブの正会員としてコンピテンシー研修や人事評価制度導入を行ってきました。
これまで個人のコンピテンシーを質問票のように紙に記入し診断を行っていました。2017年よりマイコンピテンシーというウェブ診断ができるようになりました。社員一人一人が診断を受けることで、社員のコンピテンシー診断評価と組織の診断評価が把握できます。詳しくは、こちらを参照ください。
コンピテンシー診断は、次に述べる人事評価、賃金制度のみならず、社員の適性配置、育成計画にも活用できます。詳しくは小野事務所に問い合わせください。
1.資格制度
評価基準である『コンピテンシー』や『目標シート』に言及する前に、それらを支える人事制度の基本を何に置くかを議論しなくてはなりません。代表的なところでは、『職能資格』『役割等級』『職務等級』がこれにあたります。コンピューターの世界で言えば、これらはOSに、そして『コンピテンシー』や『目標シート』はソフトウエアにあたるわけです。
職能等級
日本における伝統的なやり方で、中小企業においても12等級程度の資格階層を持つ例が多いようです。長期にわたる社内調査を経て「職能要件書」も整備します。
役割等級
『職能資格』に比べ階層がおおくくりになるのが特徴です。
社内の役割を明確に定義します。
職務等級
社内の職務を調べ上げ、その職務に序列をつけていくやり方です。
それぞれ3つを比較するとメリットとデメリットがあります。
現在の導入傾向は職能等級制度から役割・職務等級へ移行する会社が増えています。
■資格制度の作成にあたって
目的は、『期待される職能/役割/職務』を表現することです
これらの作成にあたっては、現状の社内の役割や社内業務を膨大な時間をかけて緻密に分析することはやめましょう。経営判断(こうあるべき)で、シンプルに作成します。はっきりと違いがわかるクラス分けが重要なのです。
中堅企業には『役割等級』、または『職務等級』を勧めています。
■近年、脚光を浴びる『職務等級』、3つの理由
①これまで主力であった事業がその競争力を失い、今後の成長事業を見出し、そこに経営資源を再配分することが急務となっている。そのため新しい種類の人材を調達しなければならないという問題が浮かび上がってくる。
②もう1つは、日本の大半の業界では国内の市場がすでに成熟しきっており、海外の成長に軸足を移さざるを得ないことにある。
③人材のリテンション(引き止め)
コンピテンシーを活用した人事評価制度、賃金制度について
マイコンピテンシー診断で現在の社員のコンピテンシーを評価します。
評価の上で、職務、職種、毎に必要なコンピテンシーと社員全員に必要なコンピテンシーをコンピテンシーディクショナリーまたはカードから選び具体的行動を社員参加で作成します。
最終内容は社長が決定いたします。
人事評価はコンピテンシー評価と業績評価・成果評価をトータルして行います。
2評価基準
<何を評価するか>
■評価の2軸:3つの視点で評価する
3処遇反映
■処遇反映の基本原則
処遇反映に関する基本的な考え方は以下の通りです。
短期の成果は賞与に反映させ、中期の成果は昇給・昇格に反映させ、長期の成果は退職金に反映させる。
■処遇反映の4つのポイント
処遇改訂を実施される場合は、下記の4つのポイントをどうするかをよく考えます。
①何を処遇決定の要素に盛り込むか ②賞与額の決定や昇給・昇格の決定は分離型か、総合型か ③給与表は洗い替え方式か、累積方式か ④人件費の調整弁をどうするか |
ポイント①:何を処遇決定の要素に盛り込むか
まずはどういう要素を処遇(賞与や給与)に結びつけるのかを、一般職・管理職に分けて考えます。一覧表を使うと整理しやすくなります。
例えばある中堅メーカーの例です。
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年齢 |
勤続 |
行動 プロセス |
結果 成績 |
役割 |
職務
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過去の 貢献 |
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管理職 |
基本給 |
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賞 与 |
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● |
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一般職 |
基本給 |
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● |
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賞 与 |
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● |
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ポイント②:賞与額の決定や昇給・昇格の決定は分離型か、総合型か
賞与額および昇給・昇格を決定する場合、
大別すると『分離型』と『総合型』の2種類があります。
『分離型』の事例です。プロセスは昇給・昇格へ、結果は賞与へと完全に切り分けて処遇に活かすやり方です。
これに対して『総合型』は、両方の評価結果をウエイト等用いて、昇給・昇格と賞与の双方に反映するやり方です。
それぞれのやり方のメリット・デメリットがあります。
ポイント③:給与表は洗い替え方式か、累積方式か
給与表には、大別すると『洗い替え方式』と『累積方式』の2種類があります。
『洗い替え方式』とは、1回ずつの評価に応じ、絶対額を決定するやり方です。1回ごとに評価は精算されるわけですから、評価が悪い場合には、減給もあり得るわけです。
『累積方式』には、号棒給表を用います。たとえば「評価A」の場合「号棒を+2」というようなルールを決め、運用します。当然毎年の評価が上積みされていくわけです。
職能給から移行するには累積方式がスムーズです。
それぞれのメリット・デメリットは下記のとおりです
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『洗い替え方式』 |
『累積方式』 |
メリット |
●敗者復活がしやすい ●単年度の評価を、即 処遇に反映できる (昇給無しあるいは減給が可能) |
●毎年良い評価を取り続ける人はどんどん昇給する ●毎年コツコツ昇給する安定的なイメージがある |
デメリット |
●評価が即処遇に連動し落ち着かない ●毎年良い評価を取り続けても昇給するとは限らない
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●企業業績が悪くても、昇給無しあるいは減給がやりづらい ●敗者復活がしにくい
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『累積方式』の一番のデメリットである「企業業績が悪くても、昇給無しあるいは減給がやりづらい」を補うため、従来から『累積方式』を採用する企業が、昇給上限を設ける場合が増えてきました。従来の給与表を一部手直しすることにより、毎年定期的に上昇する要素を抑えることもできるわけです。
ポイント④:人件費の調整弁をどうするか
売上・利益の急激なアップを望めない今後の経営環境にあって、人事政策上重要なことは、人件費の変動費化を考えることです。
給与・手当に関しては、毎年定期的に上昇する要素をできる限り抑え、総人件費の調整弁として業績賞与をあてることです。図示すると下記のようになるでしょうか。
<人件費の調整弁が機能しないケース>
賞与評価基準に従い「S」「A」「B」「C」「D」が決定され、賞与支給額は基本給の●ヶ月分と決定されます。この方式ですと、毎年基本給は上昇傾向にありますから、年々総人件費が高騰していきます。
賞与総額を抑えたいがために毎年の昇給を控えめにしたり、賞与の評価マークをいじったりして人件費の調整を図りますので、さまざまな部分に制度運用上の矛盾や問題点が発生する可能性があります。
■評価の考え方
今までのように、処遇が結果的に年齢・勤続・諸手当中心で決まるのではなく、与えられた役割をどのように行動したかのプロセス、そしてどういう結果を出したのか、の2つの観点から評価する制度を目指します。
これまで人事評価制度と賃金制度を説明いたしました。
コンピテンシーの人事評価制度は社員にフィードバックし、人材育成に役立てる点がメリットです。
キャリアデザインでいかに研修制度を作るかを考えるうえで非常に役立てることができます。
コンピテンシーは、社員参加のもとで作ります。環境が急転する現代社会は求められる行動も変化します。その都度企業に必要な行動を再構築できるのもコンピテンシー人事制度のメリットです。
小野事務所は、会社が業績・成果が上がる人事評価制度賃金制度を提案いたします。